大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ワ)8434号 判決

兵庫県西宮市松下町七番四五-一〇一

原告

日本翻訳協会・渡辺松華こと 渡邊礼而

右訴訟代理人弁護士

大政正一

東京都世田谷区上北沢四丁目三番一三号

被告

山添暉子

右訴訟代理人弁護士

野島良男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の事業及び営業表示(甲四の1~53、一六の1~49、二四、二七、検甲一の1~9、原告本人、弁論の全趣旨)

(一) 原告は、昭和四三年ころから、「日本翻訳協会」の表示(以下、これを「原告表示」といい、右表示を用いた原告の事業を「原告協会事業」という。)を用いて、後記翻訳力審査認定を実施して会員を獲得するとともに、原告協会の一事業部門を意味する「関西翻訳協会」の表示を用いて、翻訳業並びに会員に対する在宅翻訳業務の委託を行なっている。

(二) 原告協会事業の主たる事業である翻訳力審査認定は、原告が、原告表示を用いて、新聞、一般週刊誌、英語雑誌等に、外国語翻訳力の審査認定に合格した者には一定量の業務を保証する趣旨の在宅翻訳者募集広告を掲載し、右広告を見て履歴書を送付してきた応募者のうち、英検実力二級以上の者(〈1〉英検二級〔高等学校卒業程度〕以上を取得している、〈2〉短大以上に入学している、〈3〉専門語学を一年以上専門学校で学んだことがある、〈4〉半年以上海外に居住したことがある、〈5〉外国語の手紙の翻訳ができるという五要件のどれかに該当する者)を、全員、第一次審査(履歴書審査)に合格した準会員として名簿に登録した後、これらの者に対し、正会員となるため無料又は有料のコースのどちらを希望するか等を選択記載して原告宛に返送するための正会員申込書を送付し、有料コースを選択した者に対しては、審査認定料(終身登録料を含む。現在二万五〇〇〇円、昭和六一年八八〇〇円)の払込後に検定試験(在宅のまま受験)を実施し、合格者(但し、有料で受験した準会員は、全員が合格し正会員の資格を得ることができる。)に対しては、成績によりA級、B級、C級及びC級補欠の四等級に分類したうえで正会員の資格を与え、無料コースを選択した者に対しては、一〇種類のトライアル業務(無報酬)を終了した後に正会員と認定するというものである。

2  被告の行為

(一) 被告は、原告の元妻である足達美智子(以下「美智子」という。)の高校時代の同級生であり、昭和六一年一〇月二四日、同日設立された社団法人である社団法人日本翻訳協会(以下「訴外協会」という。)の理事に就任し、平成二年一〇月までその職にあったものである(争いがない。)。

(二) 訴外協会は、翻訳従事者の知識及び技術の向上を図ることにより翻訳業務の社会的評価を高めるとともに、翻訳従事者の雇用・就業機会の充実を図り、もって翻訳従事者の福祉の向上と経済社会の発展に寄与することを 目的として「社団法人日本翻訳協会」の名称(以下「訴外名称」という。)で設立許可を受けた社団法人であり、昭和六三年から、訴外名称及びその要部である「日本翻訳協会」の表示(以下「訴外表示」という。)を用いて、毎年一回、「労働省認定 翻訳技能審査〔1・2・3級〕」の名称で、翻訳業務従事者及び翻訳家志望者を対象とする英語翻訳能力の検定試験を実施し、合格者には、それぞれ合格証書を授与するとともに、一級~三級トランスレーターの称号(昭和六二年一二月九日付労働大臣承認)を付与している。右翻訳技能審査は、翻訳技能に関して、我が国で唯一労働大臣の承認を受けた公的資格であり、受験に際しては、受験料(一級一二〇〇〇円、二級一〇〇〇〇円、三級八〇〇〇円)以外の認定料・登録料等は不要である(甲二、五の1~5)。

二  請求

原告は、訴外協会が訴外表示を用いて翻訳技能審査事業を行うことが、不正競争防止法一条一項二号に該当し、被告は、原告が原告表示を使用して翻訳業及び翻訳技能審査を行っていることを熟知しながら、理事として訴外協会の設立に携わり、その名称を原告表示に酷似する訴外名称に定めたもので、右行為は不法行為に当たると主張して、民法七〇九条に基づき、右行為により被った損害金二九一二万円(原告が訴外協会の事業により被った四年分の営業上の損害二四一二万円及び慰謝料五〇〇万円の合計)の内金一〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月一五日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求めた。

三  争点

1  訴外協会が訴外表示を用いて翻訳力審査認定を行うことは、不正競争防止法一条一項二号に該当するか(原告表示は、原告の営業を示す表示として、需要者又は取引者間で広く認識されていたか。)。

2  被告は、原告が原告表示を用いて翻訳業を行っていることを熟知しながら、訴外協会の設立に理事として関与し、その名称を訴外名称に定めたか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1について

【原告の主張】

(一) 原告は、昭和四三年ころから、原告表示を用いて、英文等の翻訳、翻訳力の審査認定、翻訳OA機器の利用方法の研究、会員の獲得及び会員相互の発展のための企画等を行なっており、昭和五八年には、大阪市北区梅田一丁目に大阪事務所を、昭和五九年一月ころからは東京都新宿区新宿四丁目に東京事務所をそれぞれ開設し、昭和五九年には、大阪本部を現在地に移転した。

原告表示は、電話帳、業界紙、週刊誌、新聞等の広告、記事等に度々掲載された周知の名称であるうえ、原告は、昭和六〇年一二月二七日から、原告が発送する郵便物の料金予納者及び郵便私書箱の名称を「日本翻訳協会」として西宮郵便局に届けており、昭和五八年三月ころから、原告の取引銀行である三井銀行(現・さくら銀行)西宮支店に、原告の通称名として「日本翻訳協会・渡辺松華」名義の当座預金口座を開設して小切手を発行している。

したがって、原告表示は、遅くとも被告協会が設立された昭和六一年一〇月ころまでには、原告の営業を示す表示として、需要者又は取引者間で広く認識されていた。

(二) 原告協会事業と訴外協会の営業の間には、訴外協会が昭和六三年ころから大阪市内及びその周辺において、毎年、翻訳技能審査と称して、原告が行なってきた翻訳力の審査認定と類似する翻訳基礎能力検定を行ったり、右地域において、外語スペシャリスト等の月刊誌を利用して広く会員の募集を行うことにより現実に誤認混同が生じており、このため、原告は、自らの翻訳力審査認定の実施による受験認定料の取得並びに会員獲得を妨害されるなどその活動を制約妨害され、訴外協会の検定試験や会員募集を原告のそれと誤解した需要者又は取引者からの照会に対する対応などに忙殺され、著しい損害を被っている。

【被告の主張】

訴外協会は、事務所を東京都港区赤坂に置く、公益を目的として労働省の許可を得て設立された公益社団法人であり、その目的事項は、翻訳従事者の知識及び技術の向上を図ることにより翻訳業務の社会的評価を高めるとともに、翻訳従事者の雇用・就業機会の充実を図り、翻訳従事者の福祉の向上と経済社会の発展に寄与することにある。商法二〇条、二一条の商号使用に関する規制、不正競争防止法一条、二条に基づく規制は、競争関係にある商人間の不正な目的でする営業行為を規制することにあり、営利を目的としない公益社団法人に及ぶべきものではない。

また、原告表示に含まれる「日本」などという語句は、一個人による専用が許されるべきものではない。

二  争点2について

【原告の主張】

被告は、原告の元妻美智子の中学時代からの親友で、昭和四六年に原告が美智子と結婚した後は、原告とも家族的な付き合いをしていたものであり、昭和五八年には、被告の経営する翻訳会社・株式会社プリマルックスに対し、原告が「日本翻訳協会」の名で翻訳の外注をしたこともある。

被告は、原告が、営業表示として原告表示を使用して、翻訳業及び翻訳力審査認定という活動を行っていたことを熟知していたにもかかわらず、訴外協会の設立に参画したうえ前記活動を開始し、現在に至っている。

【被告の主張】

被告は、美智子とは高校時代の同級生であることから、その夫であった原告と今日までに二回程度会ったことがあるが、当時、原告は、渡辺礼而と名乗って京都で呉服の卸業をしており英語の知識もなかったのであるから、被告は、原告が翻訳事業を営んでいることはもとより、日本翻訳協会の名称を使用していたことも全く知らなかった。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告表示の周知性獲得の有無)について

1(一)  前記第二、一1冒頭掲記の証拠及び証拠(甲一九の1、2、二〇の1~5、)並びに弁論の全趣旨によれば、原告協会事業の収入は、専ら、履歴書審査に合格した準会員のうち、原告の検定試験を有料で受験する者が支払う審査認定料から成り立っていること、原告は、原告協会事業以外に、本業である呉服の卸業や日本刺繍の学校の経営等の事業を行っているが、原告個人の所得は、右検定試験の受験者が多数であった昭和六一年までは年間約二〇〇〇万円を超えていたが、被告協会が設立されその事業が開始された昭和六二年以降は、課税対象額(一二〇万円)以下にまで激減するなど、専ら、原告協会事業から得られる審査認定料に依拠していることが認められ、原告協会事業の主眼は、原告が、個人で原告表示等を用いて新聞・雑誌に在宅翻訳者募集の広告を出し、右広告を見て応募してきた者から審査認定料の支払を受けて検定試験を行ない、原告が定めた原告協会の正会員の資格を与えるというところにあるものと推認される。

そして、証拠(甲4の12~53、二四、二七、検甲一の1~9、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が第一次履歴書審査の合格者(英検実力二級以上と原告が認定した者)に付与している準会員の資格は、前記第二、一1記載の履歴書審査の五要件が、高等学校卒業程度の平均的英語力を有している者であれば誰でも該当するものであり、在宅翻訳者を選抜する要件としては、たとえ、検定試験を受けるための基礎的能力の審査であるとしてもレベルが低過ぎること、原告が検定試験の合格者に付与しているA級、B級、C級、C級補欠という正会員の資格は、審査認定料を支払って受験した準会員でありさえすれば全員が必ず合格し、全員が右四等級のいずれかに入って格付けされるものである(最低でも正会員C級補欠の資格が与えられる。)こと、原告は、新聞・雑誌の広告では、A~C級(三〇点以上)合格者には審査認定料を全額返還すると記載しているが、実際に原告の検定試験を受験した者は、殆どがC級補欠と認定されていること、原告は、原告協会事業の主催者として、右検定試験の採点の一部及びA~C級、C級補欠の評価判定を行なうとともに、正会員に委託する翻訳業務を振り分けているが、原告自身は、呉服の卸業を本業とするもので、殆ど英語ができない(自称英検三級程度)こと、原告協会が認定する正会員、準会員の資格は、財団法人日本英語教育協会主催の英語検定や、被告協会が翻訳技能審査の合格者に付与している一~三級トランスレーターの資格のように、受験者の語学力を客観的に証明するものとしては対外的に通用する資格ではないことが認められる。

また、証拠(甲二五の1、12、検甲一の9)によれば、原告協会に審査認定料を支払った者は、昭和五八年から平成四年までの一〇年間に限っても計二四二五人にも及ぶこと、原告の保有する正会員ファイルの中には、五八〇〇番台の番号が記載されたものもあることが認められ、これまで原告協会の翻訳力審査認定を受けて正会員となった者の数は、少なくとも数千人には及んでいると推定されるところ(但し、原告は、訴外協会を被告とする当庁平成四年(ワ)第一〇三号事件における平成五年二月四日付本人尋問中で、準会員二万八五〇〇人、現在翻訳を依頼している会員は約三〇〇人と供述している。甲二四)、これに対し、原告協会又は関西翻訳協会こと原告が外部から受注する翻訳・ワープロ入力等の委託業務の量は、一か月当たり約二〇件程度に過ぎない(甲二五の5~11)から、原告が一つの業務を複数の会員に委託していることを考慮しても、原告協会は、一旦正会員となった者に対して継続的に翻訳業務を委託するに足りるだけの業務量を保有していないものと推定せざるを得ない。さらに、原告は、一つの帳簿に、審査認定料、翻訳料等の原告協会事業の収入のほかに、本来の事業である呉服の売上や日本刺繍の学校の収入をも記載するなど、いわゆる丼勘定の記帳をしており、原告協会事業を一個の独立した事業として全体的に管理している形跡がないことが認められ(甲二五の5~11、検甲一の1~9)、これらの事情を総合考慮すれば、応募者が審査認定料を支払い、検定試験を受けて原告協会の正会員の資格を取得したとしても、入会当初の数回はともかく、その後も原告から継続的に翻訳業務の委託を受けられる可能性は少ないものと推定される。

また、原告が原告協会事業の運営に当たって駆使してきた原告表示を含む多数の団体名には、いずれも組織的実体がなく、新聞・雑誌広告や社名入り封筒に記載されている大阪事務局、京都事務局、東京事務局、神戸事務局なども、その実体は、共同の貸机事務所の貸机及び貸電話(大阪事務局)、知人宅に置いた転送電話(東京事務局、神戸事務局)、三女の養親宅に置いた転送電話(京都事務局)の所在場所を指称するものに過ぎないこと、原告協会事業に関する発表には、実際には発行されていない「最新翻訳大辞典」「全国翻訳家名鑑」なる書名の本をあたかも発行済みのように表示してしばしば広告に掲載したり、後記朝日新聞の記事で販売、寄付の予定があると紹介された盲人用「テープ辞典」の販売、寄付を現在まで行っていないなど不明瞭な点が多く(甲四の1~51、一六の40、二一、二二、当庁平成四年(ワ)第一〇三号事件における平成五年八月三一日の原告本人の供述、弁論の全趣旨)、また、原告協会に履歴書を送付した者の中で、実際に審査認定料を支払って検定試験を受ける者の数は、昭和六一年前は一か月当たり三〇人以上、多い時には一三〇人を超えることもあったが、被告協会設立後は一か月に一〇人以下、時には〇人となるほどに激減し、現在も一か月当たり一、二名という状態が続いている(甲一九の1、2、二〇の1~5、二四、二五、二七、原告本人)。

(二)  以上の諸事実を総合すれば、原告協会事業の主たる収入源である翻訳力審査認定は、受験者の語学力を証明するものとしても、また、翻訳業務を継続的に発注委託するための内部審査の基準としても実体を伴うものでないといわざるを得ず、原告協会事業はこのような実質的内容に乏しい営業を中核とするものであり、事業収入の大半は後記認定のような広告のための費用に投じられ、その成果として、右審査認定の受験希望者を更に募集してその審査認定料を収受することを繰り返すという営業をしているものと推認されるから、たとえ原告が昭和四三年ころから被告協会が設立された昭和六一年一〇月二四日まで、約一八年間にわたり原告表示を使用してきたとしても、原告協会事業ないしそれを表示する原告表示が、翻訳力審査認定及び翻訳業に関して、一般消費者又は語学力の審査認定や翻訳業務に興味を持つ英語学習者・需要者との間において、健全な信頼関係を獲得形成するに至っていたと認めることはできず、結局、本件全証拠によっても、原告表示が原告協会事業を示す表示として需要者又は取引者間で広く認識されるに至っていたものと認めることはできない。

2(一)  原告は、原告表示について、電話帳、業界紙、週刊誌、新聞等の広告、記事等に度々掲載された周知の名称であると主張し、証拠(甲四の1~51、一六の1~9、40、43~49、二四、二七、原告本人)によれば、(1) 原告は、昭和五七年ころから、「日本翻訳協会」又は「日本翻訳協会関西本部

関西翻訳協会」の表示を用いて、大阪市、京都市、兵庫県、奈良県、和歌山県、名古屋市、東京都、福岡市等の電話帳に「全外国語翻訳」の広告を出し、新聞・雑誌にも、「自宅での翻訳アルバイト」「一か月三〇枚以上の翻訳業務を保証」などの在宅翻訳者募集広告を出していたこと、(2) 原告の広告活動は、昭和五九年から昭和六一年にかけて頻繁になり、英語情報誌である「翻訳辞典84」、「イングリッシュジャーナル」(一九八四年七~一〇月号、一二月号、一九八五年三月号、五月号、六月号)、「外語スペシャリスト」(一九八六年二~五号)、「ステユーデントタイムズ」(一九八四年七月六日、一一月九日、一二月二三日、一九八五年一月一一日、二月八日、四月一二日)、「朝日ウィークリー」(一九八四年一二月二三日、一九八五年一月二〇日、四月二八日)、一般週刊誌である「週刊朝日」(昭和六〇年八月二三日号、九月二七日号)、「サンデー毎日」(昭和六〇年八月二五日号、九月一五日号、一〇月一三日号、一二月二九日号、昭和六一年一月二六日号、二月二三日号)、「週刊読売」(昭和六〇年九月二二日号、一〇月二〇日号、一一月二四日号、一二月二二日号、昭和六一年一月二六日号、五月二五日号)や、「朝日新聞」(昭和六〇年一〇月三一日朝刊及び夕刊、一一月一〇日)、「西日本新聞」(昭和六〇年一一月一二日)、「日経産業新聞」(昭和六〇年一〇月三〇日)といった新聞に、在宅翻訳者募集広告が掲載されたこと、(3) 原告協会事業は、新聞・雑誌の記事として取り上げられたこともあり、〈1〉一九八三年一二月一六日発行の「翻訳辞典84」には、「身障者にも翻訳者への道が開ける」という見出しで、関西翻訳協会(日本翻訳協会関西本部)がボランティア活動の一環として身体障害者のための英会話や翻訳の学習講座を開いている旨の記事が掲載され、〈2〉一九八四年(昭和五九年)七月六日付のステユーデントタイムズには、「サークル訪問 翻訳の仕事をしたい人、集まれ!日本翻訳協会-会員は主婦、OL、学生など-」という見出しで、原告協会が翻訳力認定審査を行ない、会員に下訳の仕事を紹介している旨の記事が掲載され、〈3〉昭和六一年四月六日付の朝日新聞には、「外国語学ぶ盲人向け 翻訳テープ辞典完成 五か国語を表示し発音」の見出しで、原告協会が三年がかりで盲人用外国語テープ辞典を完成させた旨の記事が掲載されたこと、以上の事実が認められるけれども、原告協会事業の実質的内容が前記のとおりのものと認められる以上、右事実を考慮しても、当裁判所の前記判断を変更することはできない。

二  以上のとおり、原告表示は、原告協会事業を示すものとして需要者又は取引者間で広く認識されるに至っていたとは認められず、訴外協会が訴外表示を用いて翻訳力審査認定を行うことが原告に対する関係において不正競争防止法一条一項二号に該当すると認めることはできないから、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例